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仙台高等裁判所 昭和43年(ネ)33号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二、無権代理の予備的主張について

(一) 被控訴人がさきに青森地方裁判所八戸支部に対し、牧野十一郎の相続人である牧野ツヤ他五名を相手取り、違約金請求訴訟を提起(同庁昭和四〇年(ワ)第一八号)したことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すると、次の事実を認定することができる。

すなわち、被控訴人は不動産取引業者で、昭和三八年六月ころ同業者である福島玉吉から本件土地を買受けないかとすすめられ、本件土地を見分し、これを買受ける気になつたが、不動産取引業者である控訴人が本件土地所有者である牧野十一郎から売却方委任を受けた旨を告げ、委任状(乙第一号証)や右牧野の印鑑証明書を示したので、被控訴人は控訴人に右代理権限があるものと信じ、同月二四日控訴人との間に前段認定(原判決参照)の土地売買契約を締結し、手付金二〇〇万円を控訴人に交付したこと、被控訴人は同年九月ころ本件土地は他に仮登記されていることを聞いたので、福島玉吉とともに調査したところ、本件土地については昭和三八年五月二八日佐々木正男のため所有権移転請求権保全の仮登記が経由され、牧野の代理人である右佐々木は本件土地をすでに横町広治に譲渡しており、控訴人は牧野の代理人として被控訴人に対し同年九月末日の期日に本件土地につき所有権移転登記手続を行うことができなかつたこと、被控訴人は前掲訴訟において、控訴人が牧野を代理して本件売買契約を締結したものである旨ならびに控訴人に牧野を代理する権原がなかつたとしても、民法第一一〇条または同法第一一二条の表見代理の規定により、牧野の相続人たる牧野ツヤ外五名において特約による違約金支払いの義務がある旨主張して争つたが昭和四一年一一月二四日表見代理行為は認められたものの、控訴人が被控訴人に示した委任状は、牧野十一郎が控訴人に対し、本件土地の換地前の従前地たる農地から小作人を離作させるために農業委員会における農事調停(法外調停)に提出すべく交付されたものであつて、一年以上経過した昭和三七年四月九日付のものであつたにもかかわらず、なんらこれに疑惑を持たず、牧野十一郎やその家族の者にたしかめることもせず、また、登記簿を閲覧することもなく、不動産取引業者で、しかも以前取引上問題のあつた控訴人に右牧野を代理する権限があつたと信じたのは被控訴人に過失があるとの理由で、被控訴人の主張はすべて排斥され、敗訴の判決言渡しを受け、該判決は確定するに至つたが、被控訴人は右判決により、控訴人が本件契約締結当時牧野を代理する権限を有していなかつたことを知つたこと、前記委任状についてのいきさつ、および本件土地売買契約の締結に至るまでの事実関係は右判決の認定した事実と同一であることが認められる。

控訴人の調書および原審および当審における控訴人本人尋問の結果中右認定にそわない部分は信用できず、その他右認定を左右する証拠はない。

(二) 控訴人は本件売買契約は表見代理が成立する場合である旨主張するが、前掲訴訟において被控訴人の表見代理の主張が被控訴人に過失があるものとして容れられなかつたことは前段認定のとおりであり、全証拠を吟味してみても、右と結論を異にすべき特段の事情は見出し難いから、控訴人の右の主張は理由がない。

(三) 控訴人は本件売買契約を解除しないで手付金の返還を求めることができない旨主張するが、さきに認定したとおり、被控訴人は牧野の無権代理人たる控訴人との間に、牧野が本件不動産につき期日までに所有権移転登記をしないときは、被控訴人に対し手付金(二〇〇万円)の倍額を支払う旨の特約をなし、所定期日までに右所有権移転登記をしなかつたのであるから、被控訴人は本人と同様の立場にある控訴人に対し右特約にもとづき予め契約解除の意思表示をなさずに特約の履行(違約金支払)を請求することができるものと解するのが相当であつて、右抗弁は理由がない。

(四) また、控訴人は、被控訴人が控訴人において牧野を代理する権限のないことを過失により知らなかつたものである旨主張するが、前認定のとおり、控訴人と被控訴人とは共に不動産取引業者であり、被控訴人は控訴人から小作人を離作させるために農業委員会における農事調停に提出すべく交付されたものであつて、かつ、一年以上も経過したものであつたが、一見牧野が控訴人に対し本件土地の処分を委任したとみえる委任状を牧野の印鑑証明書とともに示され、牧野から本件土地の売却方委任を受けた旨告げられたのであり、<証拠>によれば、控訴人と牧野とは親しく交際し、控訴人は牧野の代理人として、小作人を離作させるために農地委員会に対し離作の調停申立て、離作料の協定をしたり、土地を売却してやつたことがあり、被控訴人は福島玉吉から右土地売買の事実を聞いていたことが認められるから、被控訴人が控訴人に牧野を代理する権限があると信じたことはやむを得ないところであつて、被控訴人が右代理権限がないことを知らなかつたことをもつて過失があるとはいえない。(無権代理における相手方の過失は、代理行為者に代理権限を有しないことを過失により知らなかつた場合をいうものであるが、無権代理人の責任が表見代理が成立しない場合に問われることに鑑みれば、表見代理における正当理由の一事由として相手方に過失がないことと、無権代理において相手方に過失がないこととは、その間自ら趣きを異にするものがあるといわなければならないのであつて、前示事情のもとにおいては被控訴人に過失があるとはいえない。)

三、結論

そうすると、本件売買の契約の締結につき牧野の追認を得たことの主張も立証もない本件においては、控訴人は民法第一一七条第一項の規定により履行の責に任ずべく、本件不動産につき所有権移転登記をしないときには手付金二〇〇万円の倍額を返還すべき旨約したことは冒頭認定(原判決参照)のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し金四〇〇万円およびこれに対する控訴人が本件不動産につき所有権移転登記手続を約した日の後であること明らかな昭和三八年一〇月一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める被控訴人の本訴請求は正当としてこれを認容すべく原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。(羽染徳次 川名秀雄 丹野益男)

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